家づくりはいくつかの節目がありますが、地鎮祭も心に残るセレモニーの1つです。
結婚式などと違い、何度も参加する機会もありませんので、何を準備したりどういった所作を行えばよいのか不安に感じている人もいるのではないでしょうか。
地鎮祭に安心して参加してもらう上での準備や流れ、心構えなども解説していきます。
地鎮祭とは?その目的と意義
地鎮祭とは、工事の着工前に行われる儀式です。
工事の安全を祈願し、無事に建築が進むことや、住み始めてからの家族の安寧・幸福を願い、神様にご挨拶をするというものです。
地鎮祭は、新規に土地を購入した方だけではなく、建替えで同じ土地に新築する場合にも行います。
伊勢神宮でも、式年遷宮で20年毎にお宮の建て替えを行いますが、「鎮地祭(ちんちさい)」という儀式を毎回行っています。
地鎮祭の歴史や起源は?
地鎮祭の起源は定かではありませんが、最古の記録としては「日本書紀」の持統天皇5年(694年)に藤原京の建設にあたり地鎮祭らしき行事を行ったと書かれています。
その他にも地鎮祭の儀式の1つに鎮め物埋納の儀(しずめものまいのうのぎ)というものがあります。
この儀式を行っていたのではないかという勾玉が、1700年前の弥生時代の高床式倉庫の地面から見つかっていたりします。
このことから、地鎮祭は古代から土地の浄化と工事の無事を祈願する重要な儀式として行われていたのではないかと思われます。
海外でも、「ground breaking ceremony」という起工式が行われるようです。
神様に関する儀式というよりは、関係者が節目として集まる機会として行われるようです。(PRの目的もあるようです)
地鎮祭の御祭神について
さきほど「神様へのご挨拶」と書きましたが、どういった神様にご挨拶をするのでしょうか。
こちらについては、大地主神(おおとこぬしのかみ)、産土大神(うぶすなのおおかみ)、及び地域の氏神様や、神主さんが奉仕する神社の神様などだそうです。
また神道では万物に神が宿ると考えて八百万の神 (やおよろずのかみ)という言葉がありますが、その土地に宿るすべての神様へのご挨拶の役割もあります。
地鎮祭の準備:必要なものと手順
次は地鎮祭に必要な準備や手順を見ていきましょう。
そもそも地鎮祭は誰に頼めばいいのか?
その地域を守って下さる神様をお祀りする神社(氏神様)にお願いするのが良いと思います。
または、ご自身が普段参拝している神社(崇敬神社)があればそちらにお願いしても大丈夫です。
ご自身のお近くの氏神様を知りたい場合は、各都道府県に神社庁がありますので、問い合わせが可能です。(宮司さんが常駐していない神社もあります。)
また一方で、ハウスメーカーや工務店さん経由でお願いする方も多くいます。
セキスイハイムでも特段お客様のご希望がなければ、段取りはお任せいただいたおります。
地鎮祭の日程と場所
地鎮祭は、工事の着工前に行うことが一般的です。
設計担当者や工事関係者なども参加するため、多くの場合、縄張りや工事開始の近隣への挨拶と合わせて行うことがほとんどです。
日程については、施主側・工事関係者のスケジュール、神主さんのスケジュール、建設工事の日程で調整されます。
大安・友引といった六曜を気にされる場合は考慮します。
場所は建築地で行うことがほとんどですが、実施が難しい場合には神社に赴いて「安全祈願祭」などといった形で行うパターンもあるそうです。
また、工事が開始された後に、やっぱり地鎮祭をやりたいと、工事途中で行うケースも稀にあるとのことでした。

地鎮祭の準備物・費用
一般的には、施主側が用意するものは「初穂料(はつほりょう)」だけというパターンが多いです。
古来の作法に則って行おうとすると、儀式に必要な米や酒、塩、水などといったお供え物も施主側が用意するそうですが、このようなケースは現在ではあまりないとのことです。
「初穂料」とは地鎮祭のご祈祷に対する謝礼金です。
初穂とは今年初めて収穫されたお米を指します。
もともとは、初めて収穫された農作物や魚類などを感謝の気持ちとして神様に捧げていたことから、それがお金に置き換わっても「初穂」という文言が使われているようです。
神様にささげる感謝を込めたものですので、慶事には使いますが、弔事には使わない違いもあるとのこと。
玉串料という呼び方もありますが、こちらは玉串を神にささげるのと同意となるようです。
どちらの文言を表書きに記載するかなどは、地鎮祭をお願いする神社へご確認ください。また、お支払する額についても事前にご確認ください。3-5万円ぐらいが相場となります。(お供え物を誰が準備するかなどによっても変動するようです)

水引は蝶結びを利用します。
結婚式など1度しか行わないものは結び切り。
地鎮祭など何度でも行っても良いものは結びなおせる蝶結びが一般的なようです。
地鎮祭参加時の服装
服装について決まりはありません。
ただし、「神様へ工事の挨拶する行事」だと考えるとふさわしい服装としては、ダークカラーのスーツにネクタイ、女性であればきちんとしたワンピースなどが適していると言えます。
ただ、実際にはカジュアルな服装で臨まれる場合がほとんどです。
近隣への挨拶がある場合は、それなりの恰好をしていくと印象が良いかと思います。(ビーチサンダルにタンクトップなどは避けた方が無難)、襟付きの服にしていただくとベターかと思います。
また、帽子や日傘なども避けたいところですが、昨今猛暑ということもありますので、礼儀も大切ですが、体調との兼ね合いで、暑さから身を守るということであれば大丈夫とのことでした。
参列中に熱中症などで倒れないよう注意しましょう。

地鎮祭参加時の心構え
これから土地を利用させていただくにあたって、神様をお呼びして行うものなので感謝の気持ちを持ち、「これからよろしくお願いします」という謙虚な心持ちで臨んでいただくと良いでしょう。
地鎮祭は誰が参加するのが良いのか
その家にお住まいになる予定の皆さまで参加できると良いでしょう。
妊婦の方や、生まれたばかりの赤ちゃんなど参加が難しい場合には無理はしなくても大丈夫です。
ご両親や親戚の方などにも参加いただいても構いません。
儀式としての側面もありますが、家づくりの幸せな1コマとしてご家族みなさんで楽しんでいただき、記憶に残るイベントしてご活用いただくと良いですね。
地鎮祭の流れ:式次第と儀式の詳細
さてここからは、実際の地鎮祭の式の流れを説明していきます。
地鎮祭自体は30分程度です。式次第に関しては地域や神社などによって差がありますので事前にご確認いただくことをおすすめします。
以下の内容を事前に知っておくことでわけもわからず終わるのではなく、地鎮祭を自分事として楽しめるかもしれません。
1, 修祓(しゅばつ)
神社の儀式では、道具や参列者のお祓いをし、清めた上で神様をお呼びしたり、行事をスタートさせるというしきたりがあります。
神職が祓詞(はらえことば)を奏上(そうじょう)した後、大麻(おおぬさ)などを使い、参加者や祭壇、神饌(しんせん)などを祓い清めます。参加者は頭を下げた姿勢でお祓いを受けます。


2, 降神(こうしん)
お祓いが終わると、神様をお呼びします。
神社の中では神様が常にいらっしゃる状態ですが、地鎮祭が行われる土地にはいらっしゃいませんので、神職の「おー」という警蹕(けいひつ)と共に、神様をお迎えします。
警蹕とは、掛け声をかけて不敬なことをしないように注意を促すという役割があります。
神様が宿る依り代部分を神籬(ひもろぎ)と言います。

3, 献饌(けんせん)
神々にお供え物を奉り、お食事をしていただきます。
具体的には、お神酒を入れた瓶子(へいし)の蓋を開けます。
お供え物としては、酒・水・塩・米・海のもの・山のもの・果物などです。
海のものとしては鯛などの場合もありますが、時期によっては持ち運びや管理などが難しいこともあり、昆布や寒天などの乾物を用意します。
山のものは、時期の野菜を用意します。こちらは根のもの(大根などの根菜類)と葉のもの(キャベツなどの葉物野菜)と実のもの(ナスやキュウリなど)をそれぞれ用意します。
果物は、リンゴやミカンなどです。量や数には、決まりはありません。
大根などを用意する場合に、一本丸ごとでもいいですし、切った状態のものでもよいそうです。(調理されていて丁寧という意味にもなる)
数には決まりがありませんが、縁起のいい数字をと言われる神社もあるそうなので、ご自身で準備される場合はご確認いただいても良いかも知れません。
準備物の章でもお伝えしましたが、ご自身で準備されるのは稀ですので、神社側にお任せすることがほとんどです。

4, 祝詞奏上(のりとそうじょう)
お食事が終わると、祈願祝詞を神々に読み上げます。
祝詞とは、神さまに対して工事の安全などを祈願する言葉です。途中で皆様のお名前と住所、施工者の会社名が入ります。
5, 四方祓い(しほうばらい)
北東から時計回りで四隅と中央を祓い清めます。
散供用具(さんくようぐ)と呼ばれる紙と麻を切ったものや、米、塩、酒などを撒いていきます。
このあたりも何を撒くかはそれぞれ違いがあるようです。
八百万の神様が様々なものに宿っていると考えるので、小さな神様にも米や酒をお供え物として差し上げるという意味や、塩や酒自体にも祓い清める力があると考えられているので、お供え物とお祓いの両方の意味があるそうです。
紙はもともと貴重なものだったことから、神様にお供えするとのこと。
6, 刈初の儀(かりぞめのぎ)
神様へのご挨拶が済んだところで、工事の開始を意味する刈初の儀(かりぞめのぎ)を行います。
一般的にはお施主様が行います。
神職から「斎鎌(いみがま)」を受け取ります。
盛られた斎砂(いみずな)の上ある草を「エイ、エイ、エイ」という掛け声とともに鎌を入れる動作を3回行い、草を引き抜きます。
お施主様が行うと書きましたが、設計担当者が露払いとして行う場合や、設計と施工が同じ会社の場合は次の穿初めの儀(うがちぞめのぎ)から行う場合などもあります。

7, 穿初めの儀(うがちぞめのぎ)
穿つ(うがつ)とは、穴を掘るという意味の言葉です。
「穿ったものの見方」などの言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
物事の本質を深く掘り下げた物事の見方という意味だったものが、疑ってかかるという風に変化したものです。閑話休題。
刈初めの儀で、草を刈り整地をした後は、斎鍬(いみくわ)で基礎工事をするための穴を掘る動作をします。こちらも「エイ、エイ、エイ」という掛け声とともに、3回鍬を入れます。
こちらは工事担当者が行うことが多いです。
8, 鎮め物埋納の儀(しずめものまいのうのぎ)
鎮め物とは、地霊を和め、鎮めるために捧げる品です。
清浄な砂か小石を身と蓋と呼ばれる土器に入れ、白紙で包み麻で十文字に結んだものを用います。(浜松八幡宮さんの場合)鏡、盾や矛、人をかたどったものを入れる場合などもあるようです。
鎮め物は建物の中心に埋納します。
こちらに関しては、地鎮祭の中で行われずに、工事担当者に鎮め物をお渡しし、実際の基礎工事の時に埋めてもらっている場合もあります。

9, 玉串奉奠(たまぐしほうてん)
玉串とは小さな榊(さかき)の枝に紙垂(しで)と麻を付けたものです。
神に敬意を表し、神の恵みを受けるために祈りを込めて捧げるものです。
これを捧げることによって人の心が神に通じるとも言われます。これは参列者全員が行うことが多いです。お施主様ご家族と施工会社からは営業のみ行うといった場合もあります。


作法としては、神職に一礼し玉串を受け取ります。
玉串の持ち方は右手で枝元を、左手で葉先を持ちます。この時右手は甲を上にします。葉先を高く保ち神前へ進みます。
神前に一礼し、玉串の葉先を90度右に回します。
左手を枝元に下げ、両手で枝元を持ち、目を閉じて祈りや感謝を捧げます。
祈念が終わりましたら、右手を玉串の中ほどを下からささえて、180度右回りさせ、枝元を神前へ向けます。
左手を右手に添えます。玉串を玉串案(台)にのせます。
最後に、二礼、二拍手、一礼をし、終了です。
この祈念という行為が、地鎮祭のメインと言っても過言ではないでしょう。
工事の安全や土地や建物これから住まう家族の平安・平穏を祈りましょう。
10, 撤饌(てっせん)
神々にお供えしたお食事をお下げする儀式です。
献饌(けんせん)の逆の手順で、お神酒と水を入れた瓶子(へいし)の蓋を閉めます。
11, 昇神(しょうしん)
神籬(ひもろぎ)にお招きした神々にお帰りいただく儀式です。
ここでも「オー」という警蹕と呼ばれる声を出します。
こちらで神事は終了となります。
12, 直会(なおらい)
神と人が「直りあう」という意味で、捧げたお神酒で乾杯し、神の恵みを身に受けようとする行事です。お神酒は飲んでいただいても良いですし、車などを運転する場合は、軽く口をつけて残りは、地面に撒いていただいても大丈夫です。
その他お供え物については、神様からのお下がりとなりますので、神様の力をいただくという意味でも召し上がっていただくことをお勧めします。(生ものなどはご注意ください)
上棟祭で餅まきをしたお餅などは焼いて食べるのはよくないといわれていますが、地鎮祭のお供え物の食べ方に決まりはないそうです。
地鎮祭に関するよくある質問
ここでは地鎮祭に関するよくある質問に回答します。
地鎮祭はやらなくても問題ないですか?
もちろん義務付けられているわけではありません。
宗教上の理由から実施しない場合もありますし、キリスト教式の地鎮祭などもあるようです。
個人的には、家づくりのセレモニーの1つ、思い出の1つとして実施されてもいいのかなと思います。
また、土地も所有権という意味ではご自身の持ち物と言えますが、地球の大地を一時的にお借りして使わせて頂いているとも言えます。
当然大地の上には、小さな虫から動物・草木までの命が宿り、それらを生かす力が働いています。
その土地を人間が使わせていただくということで、感謝の心を伝え、神々にご挨拶をさせていただくというという行為は、やっておいて損はないのかなと思います。
初詣や七五三など身近な行事と同様にお考えいただけるといいかもしれません。
半導体の製造工場などの最先端のテクノロジーが詰まった工場を建設する場合でもほとんどが地鎮祭を行うようです。
地鎮祭に初穂料以外のお金はかかりますか?
基本的にはかかりません。
大がかりなテントや椅子などを用意する場合は、別途手配料がかかる場合もありますが、そういったものを用意しない場合はかかりません。
雨天でも実施しますか?
工期の関係もあり、雨天でも実施するケースが多いです。
ペットは連れて行ってもいいですか?
犬などのペットは、家や車で待機してもらった方がベターのようです。
初穂料を渡すタイミングはいつですか?
特に決まりはありません。
先にお渡しして、祭壇にお供えして実施する場合もありますし、終了後にお渡しする場合もあります。
心配であれば事前に確認しましょう。
地鎮祭以外の工事の進展に伴う祭り
地鎮祭以外にも建築にかかわるお祭りを紹介します。
取毀祭(とりこぼちさい)
家屋の建替え・改築等に伴い解体するにあたり、長年居住してきた家屋を祓い清め、家の守護神に感謝の心を捧げる神事です。
井神祭(いじんさい)
井戸を埋める際に、人間生活に不可欠な水を供給してくれたことへの感謝の心を井戸の神様に捧げる神事です。埋井祭という呼び方もあります。
上棟祭(じょうとうさい)
むねあげのまつりとも言います。
建物を新築し棟木を上げるにあたり、家屋の守護神を招き、家屋が将来無事平安であることを祈念する神事です。
竣工祭(しゅんこうさい)
新室祭(にいむろさい)とも言います。
新築した家屋を祓い清め、永く久しく安全堅固であることと、その家に住む人々の繁栄を祈願する神事です。完成後は神棚を設けて神札(おふだ)をお祀りすることも大切です。
この記事は浜松八幡宮桑島宮司のインタビューを元に作成しました

浜松八幡宮は、社伝によりますと、仁徳天皇(追加)の御代に 遠津淡海の難海安穏のため、海神・玉依姫命(たまよりひめのみこと)を現小沢渡町の許部の里にお迎えしたとあります。
この許部神社は「延喜式(えんぎしき)」にも記される由緒ある神社です。
その後、938年に現在の場所に遷されたとありますので、千年以上の歴史を持つ神社です。その時に白狐が老翁の姿となって「浜の松」を移し植え「浜松」の地名になったと伝えられています。
浜松という名前の発祥の地ってすごいですね。
徳川家康公にも所縁がある浜松八幡宮に是非お参りしてみてはいかがでしょうか。取材のご協力ありがとうございました。

